GW中のまっただ中。
終電を逃したぼくは家路を急いでいた。
あれは新手の逆ナンだったのか?深夜の線路沿いでの出来事
小さな交差点を右に曲がる。
そこは片側1車線の車通りの少ない道。夜更けで人影はない。
ぼくは線路沿いをまっすぐ歩く。
お腹が空いたな、などと考えていると視界の一部が微かに揺れた。
なんだ?と目線を先に遣ると、20m程向こうでよろめき地面に倒れそうな人がいた。
地面を這いつくばっているようにも見える。
わりとヤバそうかな?
そう思い、ぼくは慌てて走り寄った。
「大丈夫ですか?気分悪いですか?」
こう言葉を掛けたのだが、どうも酔っ払って気分が悪くなった人ではなさそうだった。
よく見ると、ぐったりしているどころかキビキビとコンクリートの歩道で何かを探しているようだ。女性だった。
「大丈夫です〜。飲み過ぎじゃないです〜。」
「あ、なら良かったです。どうされたんですか?」
「いや、友達と飲んでた帰りで〜気持よくなって音楽聴こうと思って〜ノリノリになってつい踊っちゃったら指輪が抜けちゃって〜。あ、そんな高いやつじゃないんですけど。自分で買ったのだったんで〜・・・」
多少は酔っ払ってるようだ。よく喋る。
「あ〜なるほど〜。この辺に落とされたんですか?」
「それがよくわかんないんです〜。あ、お時間大丈夫ですか〜?ほんとすみません〜。」
「いや帰るだけなんで大丈夫ですよ。」
「ほんとすみません〜。今からお風呂に入ってゆっくりするところですよね〜。貴重なお時間すみません〜。そんなにいいやつじゃないんです〜。でもこないだ自分で買ったのだから見つけたくて〜。あ、結婚指輪とかじゃないんですけどね。こないだ・・・」
細い歩道には少し落ち葉があっただけで指輪は探しやすい状態だった。しかし10分ほど落ち葉をかき分けても金属音は鳴らなかった。
「う〜ん、ないですね〜。」
「そうですね〜。あ、お時間大丈夫ですか〜?今からお風呂に入ってゆっくりするところなのにすみません〜。実はさっきも車から降りて手伝ってくれた人がいたんです〜。でも見つからなくて〜。ていうか、探してるときの私、妖怪みたいじゃありませんでした〜?気持ち悪くありませんでした〜?なんかわたしって・・・」
気持ち悪くはなかったけど、深夜の弾丸トークは結構しんどい。
とはもちろん言えない。
「大丈夫でしたよ〜。普通に心配しました。」
「あ〜よかった〜。妖怪みたいだなと自分で思ってて〜。こんな時間に地面に這いつくばってる人いませんよね〜。しかもゴールデンウィーク中に〜。お酒は好きなんですけどこんな風に指輪飛ばしたのははじめてで〜。あ、ほんと貴重なお時間すみません〜。今からお風呂に入っ・・・」
いや〜よく喋る。そしてどんだけお風呂好きやねん。
結局20分位は探したが、指輪は見つからなかった。
「ないですね〜。これだけ探してないなら側溝かもしれないですね。電話して日のある時間帯にもう一度来るのがいいかも。」
「あ〜ほんと助かります〜こんな親切な方がいて〜。お風呂に入ってゆっくりしたいのにほんとすみません〜。ほんとありがとうございました〜。今度お茶でもしましょう〜。かわいい子も友達にいます〜。」
最後の一言のパワー。
結局、名刺交換(ぼくはインスタアカウント書いた紙)だけしてその場は終わった。なにやらこの辺りでアーティスト活動をしている作家さんらしい。
“指輪を一緒に探す”女性の逆ナン手法
家に帰ってご飯を食べながら今日の出来事を振り返った。
これは女性の逆ナン手法として使えるのでは?ということだ。
どういうことか?
指輪を一緒に探す逆ナン手法のメリット
1.出会える
女性が道で地面に這いつくばっていたら、通りがかりの人は基本的には心配する。ぼく以外にも、わざわざ車を降りて声をかけてきた人がいることからも間違いない。
2.断られない
そして指輪を探しているという事実。「大丈夫ですか?」と声を掛けた以上、かなりの確率で指輪を一緒に探すことになると思う。「あ、探してるだけですね?ほいじゃーねー」とはなりにくいからだ。
3.仲良くなれる
数十分前では見知らぬ他人だった2人がなにかを一緒に探す時間を共有することで心理的距離がぐっと近づくだろう。ラポールが形成されるということだ。
寂しい女性は、お酒を一杯引っ掛け、終電で帰り、音楽を聴き、踊り、指輪をふっ飛ばしてみてはどうだろう。とは言っても危ないのでやはりおすすめはできない。
追記:後日談はこちら⇒