昨晩の話。
悲鳴が家中に響き渡った。
「わーわーわーわー、猫!猫!猫がーー!!」
うちは今、5人家族。ぼくと両親と祖父母だ。
家族みんなおとなしい性格。
ウチで大声を聞く事自体かなり珍しい。
「どうしたん!?」
「なになに!?」
母と”ぼく”がすぐ現場に駆けつけた。
廊下に置いてあったダンボールやビール缶が散乱している。
その横で”おばあちゃん”が腰を抜かしていた。
「猫が入ってきた…」
「えーー!?」
「勝手口のドア開きっぱなしやった!?」
うちは一軒家で玄関とは別に裏の勝手口がある。
勝手口の前には生ごみ用と空き缶用のゴミ箱を置いており、ときどき猫がその周りをウロウロしているのだ。
「猫はどこ行ったん!?」
「納戸にバーッと入ってった」
確かに中からゴソゴソッと音が鳴っている。
一応ガラス戸は閉めておいた。
「こんなんはじめてや」
「デカかった?」
「デカかった。こっちに向かって走ってきて死ぬかと思った。」
「やからドアちゃんと閉めとかなアカンねん」
母親はやっぱり偉そうな一言を付け加えてくる。
「どうする?まだガサガサ言ってんで」
「私よう行かんわ」
「ゴキブリはいっつも私がやってんねんから誰か頼むわ」ブルブル震えながら「おばあちゃん」は言った。
3人の中で男はぼく1人。誰がやるかは相場が決まっている。
「任しとき」
「ぼく」は近くにあったホウキを片手に悠々と、ひとり納戸の中に入っていった。
音は聞こえなくなっていた。ホウキを振り回してもなんの反応もない。
「ほんまにこの部屋に猫入っていった?」
「うん見たもん」
おかしい。
とりあえず勝手口のドアを開け、またホウキを振り回しながら猫を探す。
「いたー?」
「いないー」
猫はどこに行ってしまったんだろう?
その部屋にいるはずなのにその気配すらない。
「もうコワイからテレビの部屋に逃げとくで」と、おばあちゃん。
「うん、任しときー」
ほんとうに頼りがいのある”ぼく”。
30分くらい猫を探し続けたが結局見つからなかった。
家族みんな不安で不安でしょうがない一晩だった。
次の日の朝。
また悲鳴が聞こえた。
「わー、猫おった!」
「え、ほんま!?」
「逃げた!?」
「勝手口の段差のとこにおった。見つからんはずやで」
「よかったよかった」
「でも昨日といいほんま頼りになったわ」
「普通やろ」
こうしてウチにまた平和な日々が戻ってきた。
あとがき
この話はフィクションだ。
「ぼく」と「おばあちゃん」を入れ替えるとノンフィクションになる。
おばあちゃんはうちの偉大なヒーローだ。おわり。